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オーディオブランド探求 ~marantz~


Audio Consolette

オーディオの名門ブランドであるマランツといえば今や日本のブランドになっていますが、元々はアメリカのブランドで、ソウル・バーナード・マランツのいうエンジニアの名前から由来しています。

ソウル・B・マランツは、ニューヨークで1911年7月7日に、3人兄弟の長男として誕生しました。彼はフリーランスのグラフィックデザイナーで、ギターやチェロの演奏家でもあり、大変なレコード愛好家でした。彼は当時のアンプの性能に不満を持っていて、何とか自分の満足するアンプを作りたいと研究を重ねます。この当時のLPレコードは各レコード会社でフォノイコライザーカーブが異なり、それが彼の悩みの種でした。
1952年、ソウル・マランツはついに各種イコライザーカーブを備えた画期的な真空管式モノラルプリアンプ「Audio Consolette(オーディオ・コンソレット)」($155)を完成させます。この製品は彼の仲間内で評判になり、最初は100台の製作予定でしたが、すぐに売り切れてしまい、最終的に400台を超える注文が舞い込みました。そこでオーディオ・コンソレットを量産するために1953年「マランツ・カンパニー」を設立します。

Model 1

その翌年の1954年に、新しく制定されたRIAAイコライザーカーブを組み込んだ、オーディオ・コンソレットをベースモデルとしたModel 1が発売になります。当時の価格は168ドルと当時としては高級品ですが、その素晴らしい音質はオーディオファンを虜にしました。なおこの商品もモノラルプリなので1957年にステレオ対応するためにModel 1をもう1台とステレオアダプターのModel 6を用意して最新のステレオレコードが楽しむことができます。それとオーディオ・コンソレット、Model 1ともに電源部が別筐体で、Model 1 の写真の左横に写っているのが電源部になります。

Model 2

1956年、Model 1と対になるモノラルパワーアンプModel 2($198)が発売されます。チーフエンジニアはシドニー・スミスで、ソウル・マランツをして「天才」と言わしめた逸材です。このアンプは2つのドライブモードを持ち、40 Wの五極管(UL接続)モードと 25 Wの三極管モードに切り替えることができました。これ以降、ソウル・マランツはプリアンプの設計を、パワーアンプはシドニー・スミスの設計となります

Model 7

1958年12月、ついにあの名機が発表されます。プリアンプのModel 7($273)です。この年の3月にはステレオLPレコードの標準録音・再生方式(45/45方式)が制定され、ステレオLPレコードが普及し始めたころでした。この美しくて高音質なプリアンプは大変な評判を呼び、12年間で13万台以上を販売したといわれています。シンメトリックでシンプルなデザインは優雅で気品に溢れ、特にウッドキャビネットをまとったModel 7Cはオーディオファン垂涎の的となりました。

Model 9

1960年、Model 7とペアになるモノラルパワーアンプModel 9($324)が発売になります。EL34出力管のパラレルプッシュプル回路によって70W(UL接続)と、40W(三極管接続)の出力を誇ります。このModel 9はマランツ史上初めてのフロントパネルを持つパワーアンプとなり、センターにレイアウトされたバイアスメーターのデザインが斬新です。このレイアウトは現在のマランツのアンプにも受け継がれています。また業務用19インチラックにマウントできるようにしたModel 9Rという製品も存在していたようです。

Model 10B

1963年、マランツ初のFMチューナーModel 10Bが発表されます。設計は若き天才リチャード・セクエラです。
彼が31歳の1961年にマランツ・カンパニーに入社します。そして彼が最初に完成させたチューナーは1962年のModel 10でした。最初の5台は$550で販売されました。しかし完璧主義者のセクエラはその性能に満足せず、発表から翌年の1964年になってModel 10B($650)としてようやく発売にこぎつけました。しかしそのあまりの開発費の額に、その頃には会社の資金が底をついてしまい、結局この年の後半にマランツ・カンパニーはスーパースコープ社に身売りされていまいました。スーパースコープ社は当時ソニー製テープレコーダーのアメリカにおける販売代理店を行っており、オーディオメ―カーとしての役割も担っていくことになりました。こうしてマランツ・カンパニーは輝かしい名器の数々を残しつつ、11年余りの短い歴史を閉じていくことになりました。

SEQUERRA MODEL 1

ソウル・バーナード・マランツは1967年までは名誉会長という形で残りますが、その後退職します。1972年にはダルキストというカナダのスピーカーメーカーの設立に関わります。
シドニー・スミスもマランツを去った後、いくつかの会社でオーディオに関わっています。
リチャード・セクエラはマランツ退社後、自身の名を冠する「SEQUERRA」を創立。そして、自分の思うままに設計を進め「MODEL1」(¥1,280,000)を完成させます。1970年に発表されたこのウルトラハイエンドチューナーは、当時でも非常に高級品だったが、今でも(特にアメリカでは)高値で取引されている名機です。(ちなみに、セクエラとシドニー・スミスは1970年代半ばにこの会社で再会していて、「SEQUERRA MODEL1」ではシドニー・スミスも開発に携わっていたようです)
1966年、スーパースコープ社は低コストでマランツ製品を生産するため、複数の日本の製造業者と、生産における可能性を模索し始めます。 最終的に相模原市のスタンダード工業株式会社をパートナーとして選び、生産が開始されます。スーパースコープはスタンダード工業の50%の株式を購入し、多くのマランツブランドの製品が日本で生産されました。その後1975年に日本マランツ株式会社に称号変更しました。

スーパースコープからアメリカとカナダを除くマランツを買い取った企業は、オランダに本拠を置く総合エレクトロニクスメーカー、フィリップスでした。フィリップスは、消費者向け家電製品から医療機器まで、さまざまな種類の電化製品を手掛け、ヨーロッパでも最大規模の企業の1つになるまで成長します。 フィリップスはソニーと協力し、CDの共同開発者になりました。CDの最終的な仕様は 1980年6月に決定され、同年12月にフィリップスはマランツを子会社として買収します。

2001年5月、日本マランツは、ヨーロッパとアメリカにおけるマランツブランドとその権利、子会社、および資産をフィリップスから買い取ります。さまざまな変遷を経たマランツブランドが、日本マランツの下で再び統合され、日本マランツ株式会社は、初期製品開発からマーケティングまで、マランツに関連するすべてに対して単独で責任を負う立場になります。元々はフィリップスによって確立された、世界中にあるすべてのマランツの販売子会社は、日本マランツ株式会社の支配下に収まりました。

そして2002年、日本マランツは株式会社ディーアンドエムホールディングスの傘下に入り、デノンと兄弟会社の関係になりました。2017年、アメリカのサウンド・ユナイテッド社がディーアンドエムホールディングスを買収します。両社は合弁会社となり、新たにSound Unitedとして統合されながら、これまでの各ブランドビジネスは以前と変わりなく継続しております。

Model 1250

こうした変遷の中で、商品もローコストからハイエンドまで幅広くラインナップしてきましたが、その一部をご紹介したいと思います。

1976年発売の、まだアメリカ・プロデュースで日本マランツ(この前年に社名をスタンダード工業から日本マランツに変更しました)製造のプリメインアンプ、Model 1250です。当時の価格は¥195,000でした。初期のマランツのデザインが色濃く残っているモデルです。Model 7のようなシンメトリーのパネルデザインは使い勝手も良さそうです。この頃のオーディオ機器は、日本はまだ遅れていてアメリカ設計のこうした製品のほうがいい音がしていたようです。

この頃の製品で私が特に評価しているものが、ハーフサイズで質感・重厚感も抜群で、省スペースで小粋な「ミュージックリンクシリーズ」の商品群です。

DAC-1 プリアンプ

DMA-1 モノラルパワーアンプ

PH-1 フォノイコライザーアンプ

CD-23 CDプレーヤー

1988年頃から1994年くらいまで第2世代も含めて、プリアンプ(DAC-1 ¥160,000)・モノラルパワーアンプ(DMA-1 ¥125,000)・フォノイコライザーアンプ(PH-1 ¥180,000)・CDプレーヤー(CD-23 ¥200,000)からシステムラックまでをラインナップしておりました。現在も「ミュージックリンクシリーズ」は存在しておりますが、この頃の製品のほうがクオリティでも価格面でも上位のモデルであります。今の時代に復刻版をリリースすれば大きな話題を呼ぶことは間違いなしでしょう。現在の日本でのリスニング環境を考えると、一部の富裕層は別にして一般的にはオーディオにスペースを割くことは難しくなっているのが現実でしょう。そんな時にこうした省スペースでクオリティも高いものがあれば非常に面白いと思うのですが、皆様いかがお考えでしょうか。

SC-7S1

そして2002年にハイエンドセパレートアンプSC-7S1(¥700,000)とモノラルパワーアンプMA-9S1(¥1,300,000/1ペア)がリリースされます。プリアンプmodel 7とパワーアンプmodel 9といった伝説的なナンバーを受け継いだプレミアムな製品で、現在のマランツでは商品化されていないグレードのセパレートアンプとなります。
SC-7S1は「真の意味でのSuper Audioに対応するために」開発された凝りに凝ったプリアンプは、SACDマルチチャンネルやバイアンプドライブ、さらには映像ソフトのマルチチャンネル再生に対応するために最大6台のSC-7S1を連結してシンクロ駆動させることが可能です。

SM-9S1

MA-9S1はハイエンドのリファレンススピーカーとして、イギリスB&W社のSignature800が要求する、瞬時電流供給能力100A以上というスペックをクリアーすべく開発されました。逆起電力からの影響を最小限に抑えるため、増幅回路を3パラレル・プッシュプル・フルバランス構成のボルテージアンプ(電圧増幅回路)23dBとパワーバッファーアンプ(電力増幅回路)6dBの2アンプ構成としています。

SC-7S2

そして2006年にはリファインモデルで、SC-7S2(¥700,000)、MA-9S2(¥1,400,000/1ペア)へと進化します。この背景にはマランツがリファレンスにしているB&WのスピーカーがSignature800からダイアモンドシリーズの800Dに変わったことで、新たな課題(クオリティアップ)を突き付けられたというわけです。
SC-7S2は前作にも採用していたWolfson製のボリウムコントロールIC「WM8816」を2個並列で使用して、SN比を3dBあまりも改善しています。またインプットバッファアンプはオペアンプを使用せず、オールディスクリート回路のHDAM-SAを採用したこともSN比の改善に寄与しています。

SM-9S2

パワーアンプのMA-9S2はまず大型のメインブロックケミコンの大容量化(22,000→33,000μF)が図られています。そして前作の初段に旧来のHDAMを使っていたのですが、今回そこも含めて全段のHDAM-SA化によりプリアンプと同じく3dBのSN比の向上を果たしています。またパワートランスの変更もありまして、前作はスーパーリングコアをケースに入れない裸の状態で納めていました。これは開放感のある音を求めてのことでしたが、電源事情が悪いところではトランスの唸りが発生することがあったようです。そこで今回はドーナツ状のコア材を上下に2分割して、2段重ねとした上でその周囲を遮音プレートで覆って、それを非磁性体のアルミケースに入れて充填剤を詰めて、振動が外部に伝搬しないよう対策をした結果、SN比の向上に大いに貢献しました。しかもこのトランスをアルミスペーサーを介して底板から浮かせて取り付けることで、ヌケのいいサウンドに仕上げたとのことです。

PM-10

プリメインアンプでは最新モデルのPM-10(¥600,000)、PM-12OSE(¥350,000)が非常によくできていると思います。PM-10では「大出力と圧倒的なスピーカー駆動力」、「フルバランス回路」、「独立電源(プリアンプ、パワーアンプL/R)」という3つの要素を1つにまとめた意欲作になりました。HDAM-SA3モジュールによるフルバランスプリアンプ部はプリアンプ専用電源を搭載して安定した電源供給を可能にしています。パワーアンプ部にはオランダのHypex社製 NCore NC500スイッチングアンプモジュールを採用して、しかもチャンネルあたり2基、L/R合計4基のモジュールを使用するBTL構成により400 W / 4Ωの大出力を実現しています。

PM-12 OSE

PM-12OSEはNC500スイッチングアンプモジュールをシングル構成としている点が大きな相違点です。また前作のPM-12は30万円という価格制約がありましたが、マランツ技術陣はPM-12でやり残したという感覚があったようで、日本限定モデルという形でOriginal Special Editionを投入しました。5万円アップとなりましたが、銅メッキシャーシ、5mm厚のアルミトップカバー、アルミ無垢材から削り出されたインシュレーターを採用するなど外装パーツはPM-10とほぼ同等となりました。
このプリメインアンプ2機種が、今後のマランツ製品の方向性を決めるターニングポイントになるのだろうと思います。特にサイズ制限のあるプリメインアンプでは、NC500スイッチングアンプモジュールという選択は理にかなっているように思えます。一方セパレートアンプは現在ラインナップがありません。日本国内ではこうした趣味のオーディオを楽しむユーザーが少なくなっている現状を考えると、むやみに高級品を手掛けるのは難しいと思いますが、製品化するかどうかは別として、オーディオメーカーとしてのスキルアップのためにはこうした製品の開発は不可欠でありましょう。舞台裏ではひそかに進んでいるのかも知れませんが、来たる創設70周年のアニバーサリーモデルとしてmodel7とmodel9を受け継ぐ製品を期待したいと思います。そしてその姿勢こそが創業者のソウル・バーナード・マランツのDNAを継承していくことにつながるのだと思います。