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オーディオブランド探求 ~ESOTERIC~


TD-102

エソテリックは、1987年にティアックの高級オーディオブランドとして誕生しました。ここではそのティアックの生い立ちから辿ってみたいと思います。

1953年8月、谷勝馬氏と弟の谷鞆馬氏が、現在のティアックの前身である東京テレビ音響株式会社(=後のティアックオーディオ株式会社・東京都三鷹)を設立します。そして、1956年に東京電気音響株式会社(=後のティアック・東京都墨田区)を設立し、1964年に両社が合併し、現在のティアックになりました。
谷勝馬氏は戦時中、日本電機音響株式会社勤務時代に国産第一号の円盤録音機を開発し、この機械が終戦の日の天皇陛下の玉音放送に使われたという話をアキュフェーズ創業者の春日二郎氏が著書「オーディオ徒然草」の中で語っています。

1957年にオープンリールデッキTD-102の試作モデルを完成させると、当時アメリカのラジオ問屋だったラファイエット・ラジオ社が簡素な工場を訪れ、「これをキャビネットに収め、再生アンプを内蔵したテーププレーヤーを作って欲しい」とその場で25台もの発注をしました。当時アンプの調整をする人間が一人しかおらず、3日間不眠不休で何とか台数を間に合わせたという話が残っています。しかし当時の金額で6万円(大卒の初任給は1.5万円)もする高級品であることと、レコードが全盛の時代でテープの録再システムは早すぎた感がありました。
その後はさしたる注文もなく迎えた翌年1月、フィルコ社で技師をしていたプレッシュ氏が、『TD-102』の評判を聞きつけ工場を訪れます。「こんないいものがあるのに、どうしてもっと宣伝をしないのか?私は立川基地の極東オーディオクラブの世話役をしているから、そこでデモンストレーションをしたらどうでしょう?」と申し出てくれました。立川基地でのデモンストレーションは大成功。デモで持ち込んだ50台すべてが完売したそうです。谷勝馬氏は「それからが大変でした。墨田のボロ工場の前に、連日外車が停まり、TD-102を前金で買っていく。このミスター・プレッシュは、ティアックの福の神とも言ってもいい人です。ともかく、商売というのはどういうものかを教えてくれた人。海外展開の最初の種をまいてくれたのはこの人なんです」と回想しています。
ここからテープデッキメーカーの歴史が始まっていくわけですね。私もこの業界に入ってからカセットデッキはC-1とZ-7000を使ってきましたが、確実なロジックコントロールとキッチリとした力感溢れる骨太な音が魅力的でした。

P-1/D-1

さてここからはエソテリックです。エソテリックブランドは、ティアックの高級オーディオブランドとして1987年12月に誕生しました。ちなみにESOTERICというのは英語で「深遠な」とか「秘伝の」という意味です。2002年に社内カンパニー制で「ティアック・エソテリックカンパニー」となり、2004年にエソテリック株式会社と改称して、ティアックの子会社として独立しました。

第一号製品はCDトランスポートのP-1(¥300,000)とDAコンバーターのD-1(¥200,000)です。P-1は今やエソテリックのCDプレーヤーの代名詞となったVRDSメカニズム( Vibration-Free Rigid Disc-Clamping System)を搭載した初代の製品です。これはディスクと同径で微妙なテーパー角を持つ高質量ターンテーブルに高精度クランパーでディスクを圧着しており、ディスクのソリや歪を矯正するとともにディスク回転時の振動や共振を排除しています。つまりディスクの中心部を支持して回転させるのではなく、ディスクの面全体を密着させて回転させるわけです。ディスクの面ブレを防いでピットを正確に読み取ることにより、サーボ電流を極小化して音質を向上させました。この機構は海外のハイエンドメーカーのトランスポートにも採用されている由緒正しいメカニズムです。
またエソテリックでは新製品が発売になったときに、旧タイプをバージョンアップにて最新モデルにするサービスを行っています。全ての製品がバージョンアップできるわけではありませんが、内部配線や基板の交換等であればVUKという型式でバージョンアップキットがアナウンスされます。

P-0

エソテリックではこのメカニズムを時代とともに進化させており、その一つの頂点がエソテリック10周年記念モデルのCDトランスポートのP-0(¥1,200,000)です。ピックアップ部にはピット読取精度を追及した世界初のロスレス・スレッド送り超精密機構を採用しています。このメカニズムでは音質に悪影響を及ぼすアクチュエーターの動きを静止させ、ミクロン単位で加工された精密ボールねじリードスクリューとボールベアリング、32ビット20MHz CPUを利用したマイクロステップ制御技術の組合せによってサブミクロン単位でのピックアップ送り駆動を行っています。これにより偏心の多いCDソフトに対してもピックアップの光軸がピットのセンターをトレースできています。
つまり今まで誰も考えなかったような、ディスクの信号を記録したピットのど真ん中を読み取っていく仕組みを構築しました。そのためオーディオメーカーでは決して使わないような部品を集めて構築した結果、再生音は劇的に向上しましたが、自慢の超精密スレッド送りの動作音が映画「ターミネーター」のようなメカ音がします。P-0とリスニングポイントが近い場合は気になるかもしれませんが、ピットの真ん中を読み取ることがこれほどまでに音を良くすることを改めて教えてもらいました。
P-0は当初、バージョンアップにて次世代CDディスク(SACD)への対応をアナウンスしていましたが、最終的に決まった規格においての対応が困難なため見送られました。

P-01/D-01

その後もCDプレーヤー関連は確実に進化していき、2004年に新しいVRDS-NEOメカを搭載したSACDトランスポートP-01とモノラルDACのD-01 を発売します。トランスポートは電源部が別筐体となり、DACと合わせると4筐体で440万円という当時としては国内最高価格でありました。モノラルDACというのも国内初でした。

この頃からエソテリックはCDプレーヤーメーカーから総合オーディオメーカーへの転身を図っていきます。2003年にエソテリック初のパワーアンプA-70を発売します。モノラルのパワーアンプで、電源部はWBメイントランスにもう一つサブトランスを加えた2トランス構成とし、電源及び筐体に徹底的にこだわりました。これを皮切りにA-80、A-100、C-03、A-03、E-03、A-02、I-03等、8年くらいの間にパワーアンプ・プリアンプ・プリメインアンプ・フォノイコライザーアンプと、アンプのラインナップを揃えてきました。その気概と執念は評価に値しますが、アンプしかもハイエンドクラスとなると最初から素晴らしいものはなかなか難しいようで苦戦が続いていましたが、2013年にGrandiosoシリーズというハイエンドラインナップを創設して、CDプレーヤーやマスタークロックジェネレーター、セパレートアンプ、プリメインアンプを製品化しました。このシリーズになるとアンプの開発の方向性もかなり定まってきたようで、いよいよ総合オーディオメーカーとしての立ち位置も明確になってきました。もちろんアキュフェーズやラックスにしても長い年月をかけて熟成して今の地位があるわけで、エソテリックもようやくその入り口にたどり着いたという感じでしょうか。でもこれからは今の立ち位置に満足することなく、ブランドの個性や音楽性を明確に出していければ、市場評価はおのずとついてくるようになると思います。

Grandioso P-1X/D1X

そのGrandiosoシリーズのCDトランスポートとモノラルDACの最新バージョンであるGrandioso P1XとGrandioso D1Xが昨年登場しました。今回は両方とも10年に1度と言ってもいいほどの技術的な節目で、素晴らしい製品に仕上がっています。
Grandioso P1Xはドライブメカニズムが最新のVRDS-ATLASに進化しています。VRDS-NEOから16年が経ち、新たにワイド&低重心設計によりモーターを従来のブリッジ最上部からターンテーブル下側に移動することで、振動が地面にアースされるまでの経路を大幅に短縮化してノノイズ低減に成功しています。
Grandioso D1Xは従来の36bitから大きく進化した64bitの高解像力を備え、DSD 22.5MHzやPCM 768kHzの再生をはじめ最新テクノロジーに対応。全ての処理を自社製FPGAアルゴリズムで行い、汎用DAC ICを使わないディスクリート回路設計により、細部に至るまでESOTERICの思想が貫徹されています。

VRDS-ATLAS

SACDトランスポートと電源部、モノラルDAコンバーター2台の4筐体で合計700万円というと国内最高価格であり、海外モデルを含めてもこの上をいくものとしてはdCSとCH Precisionだけでしょう。しかもこのVRDS-ATLASメカは門外不出部品でエソテリック製品でしか使われていません。今現在VRDS-ATLASメカを搭載している機種はほかに一体型CDプレーヤーのGrandioso K1XとK-01XD/K-03XDの3機種になります。K1Xと01XDはほぼ同一のメカになりますが、03XDはブリッジ厚が18㎜となったVRDS-ATRAS03というタイプになります。そしてもう1点、このシリーズの大きなアドバンテージはGrandioso D1X で完成したMaster Sound Discrete DACの回路規模を小さくして搭載しています。躍動感とかエネルギー感といったエモーショナルな要素や音楽の感動がより一層感じられるようになりました。この二つの技術革新によりエソテリックのSACDプレーヤーは新しいステージに到達しました。

Master Sound Discrete DAC(Grandioso D1X)

エソテリックのMaster Sound Discrete DACがどのクラスまで下りてくるのかはまだ不明ですが、ここまで来たらK-05/K-07クラスまで規模は小さくなれども、Discrete DACで組み上げてもらいたいものです。今回、型番の末尾のXDはDiscreteのDのようですので、K-05/K-07も末尾がXDとなったらDiscrete DAC搭載ということになるので期待しましょう。VRDS-ATLASメカの搭載は価格的に無理ですし、DACだけでも相当なコストアップが見込まれそうですが、何とか実現してもらいたいと思います。

そしていよいよGrandioso C1の後継モデルが出るようです。内容はまだ不明ですが、価格的には300万円越えの大変な力作になるようですので、こちらも楽しみに待ちたいと思います。先頃発売されたアキュフェーズの創立50周年記念モデル第2弾のC-3900(¥1,900,000)を圧倒的に凌駕するクオリティを見せるかどうかは非常に興味が湧くところであります。
今年は新型コロナウィルスの影響で、東京インターナショナルオーディオショーも中止になってしまいましたので、どこかのタイミングで店内イベントとしてこの対決を実現させたいと思います。