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オーディオメーカー探訪 その1 アキュフェーズ


新型コロナウィルスの影響で外出自粛が続く中で、お店に来店される方も少なくなって、計画していた試聴会イベントもすべて中止・延期となり、なかなか苦悩の日々が続いております。そんな中何か発信できることはないかと考えておりましたが、少し趣向を変えて、国内外のオーディオメーカーの歴史を改めて振り返ってみたいと思います。


第1回目は日本初の高級アンプメーカーのアキュフェーズです。

今でこそアキュフェーズの名前は世界中に知れ渡っていますが、その母体が当時のオーディオ御三家(パイオニア・サンスイ・トリオ)のトリオだったことはご存じない方も多いかも知れません。創業者の春日仲一・二郎兄弟はトリオの創業者でもありました。
1946年に長野県に有限会社春日無線電機商会を設立しています。翌年には商標をTRIOとして、1960年には社名もトリオに変更しています。翌年には海外向けブランドとしてKENWOODを設立しました。

ここまで順調に業績を伸ばしてきましたが、創業者の春日兄弟にはやり残した思いがありました。それは「真の高級アンプを作りたい」ということでした。そこには拡大路線で大量消費の製品開発から脱却して、限られたニーズの中で趣味性の高い高級品を手掛けたいという思いでした。当時はオーディオブームが来ておりましたが、ハイエンドオーディオというものは国産ではまだありませんでした。春日氏が目指したのはアメリカのマッキントッシュのような個性あふれる高級アンプメーカーでした。当時の社長のゴードン・ガウ氏の経営手腕を高く評価していたようです。

創業当初のメンバー

そして1972年にトリオを退社して、ケンソニック株式会社として創業しました。ブランド名はアキュフェーズ(Accuphase)となりましたが、これはAccurate(正確な)とPhase(位相)という造語で、最初のころは「言いにくいなあ」と思ったものでした。

その後実際に処女作が完成するまでは1年ほどかかり、その間は春日二郎氏の自宅を研究所として開放し、製品開発を続けました。春日氏の著書によると、その開発費に2億円を投じたようです。また製品発売前に横浜市で現在も使われている鉄筋コンクリート製の本社ビルも建ててしまったとのこと。それは春日氏の「絶対に成功させる」という不退転の決意の表れでした。その背景には「春日さんが始めるならばお手伝いしたい」と取引銀行が快く融資を引き受けてくれたことも大きかったようです。
その第1作のC-200プリアンプ(155,000円)とP-300パワーアンプ(195,000円)そしてT-100FMチューナー(135,000円)も春日氏が技術陣に「オーディオ技術者として満足できる製品を作れ」という号令をかけたこともあり、想定した価格よりもかなり高くなってしまったようです。今まで存在しなかった国産初のハイエンドオーディオ製品の誕生です。しかしこの製品の市場評価はすこぶる高く、多くのメディアや販売店から絶賛されたのでした。当初の価格設定に無理があったのか、発売から半年後にはそれぞれ165,000円、230,000円、155,000円に値上がりしましたが、それでも人気だったようです。
この1号機の成功により順調に業績も伸ばして、10年後の1982年に社名もアキュフェーズ株式会社と変更してブランド名と社名を統一しました。

春日二郎氏(右)と齋藤重正氏(現会長)

その後の躍進は皆様ご存じの通りでしょうが、このメーカーの一番の強みは何でしょうか。私は「サービス体制の充実」にあると思っています。さすがに30~40年前の製品はパーツの関係で修理が難しいものもありますが、現在の製品も含めて約180機種くらいの製品のメンテナンスが可能です。サービスの方が「パーツ倉庫だけは年々大きくなっている」とおっしゃるくらいパーツ在庫は豊富です。修理代は決して安くはありませんが、丁寧にきちんと直してくれます。その信頼感がユーザーを離さない一つの仕組みなのだと思います。

あとは製品の「信頼性」です。アキュフェーズの製品はとにかく壊れにくいのです。長年使っていてもトラブルは少なく、仮に故障してもサービスの方でしっかり修理してくれます。
ユーザーにとってはこれほど心強いものはありません。これは創業の時から貫かれる徹底的な品質の追求が現在も受け継がれていることを意味します。アキュフェーズユーザーは音に惚れて導入される方も多いですが、この信頼性を評価して買われる方も多いのが特徴です。国内の一般的なオーディオファンの方でしたら、アキュフェーズはアンプの終着駅になるでしょう。また自分の音探しの旅に出る方はアキュフェーズを出発点に海外のハイエンドブランドへと進まれる方も多いと思います。私の場合も世界のオーディオ製品を導入するきっかけとなったのはアキュフェーズのセパレートアンプを使用してからでした。

現在の本社屋

最後にアキュフェーズという会社が本当にユニークだなと思った点を記したいと思います。
それはアキュフェーズの経営理念にもありますが、「会社の規模を大きくしない」ということです。これはなかなかできることではありません。創業者の春日氏がトリオ時代に感じたことは、会社が自分でコントロールできなくなってしまうほど大きくなってしまうと、ほんの一握りの人々のために作り上げる趣味性の高い高級品が作れなくなってしまうということでした。そのことに気づいて、自分の理想の製品を作り続けるために敢えて会社の規模は追わないという決断は本当に素晴らしいと思います。しかもさらに驚くべきことは、その規模は50年近く経とうとしている現在もほぼ変わらないということです。いかに先見の明があったかということと、その理念をきっちりと継承しているところがアキュフェーズのアキュフェーズたる所以なのだと思いました。


参考文献:春日二郎著 「オーディオ 匠のこころを求めて」